水泳プールの飛び込み事故の問題については、その重大性にかんがみ、(財)日本水泳連盟は我国の水泳の統括組織としての立場と責任から、何らかの見解を明らかにすべきであるとの判断のもとに、平成16年秋に水泳指導、建築、スポーツ医・科学、法律等の専門家を含めた「プール水深に関する特別委員会」を設置し、鋭意検討をすすめ、本ガイドラインを策定するに至った。
つまり、全国の既存プールには水深1.0〜1.2m程度の施設がかなり多いという状況の中で、競技会なりトレーニングを実施していかざるを得ないという現実的問題点を認識した上で、このガイドラインにより、重篤な飛び込み事故の防止を図ると共に、より安全でより合理的な水泳の普及・振興に結びつけようというものである。
1.
現行のプール公認規則(2001年4月改正)では、スタート端壁前6.0mまでの水深が1.35m未満のプールではスタート台の設置を禁じている。しかし、これとても絶対的な安全な水深という訳ではない。如何なる飛び込み姿勢に対しても安全な水深となると、各方面の研究成果から判断して、現場の常識をはずれた深いプール(水深3m以上)とならざるを得ない。
2.
また一方、水深1.0〜1.2m程度のものでなければ、競技会以外の目的が多い一般の営業プールでは使い物にならないという現実もある。
3.
また競技としては、ある程度の高さから飛び込みスタートするということなくしては、記録上の魅力は望めないという事情もある。
4.
熟練指導者の見解等から総合すれば、スタート台の高さは低ければよいというものでもなく、安全で合理的なスタートのための、適切な高さというものが自ずと存在すると考えられる。(低すぎる場合、入水角度を得るために高く飛び出す傾向が生じ、かえって危険度が増すことがある)
5.
そこで、全国のジュニアクラスの熟練コーチ約400名に対し、水深1.0 〜 1.2m前後のプールにおけるスタート台として危険度の少ない高さについて、経験値としての判断アンケート調査を行った。その結果は、別表・別図のとおりである。これは水泳のスタート及び飛び込み事故に関わるスポーツ医・科学的研究の成果・報告と参照しても、飛び込みスタートの方法を十分習得している泳者の利用を前提とすれば、合理性のある内容とみることが出来る。
したがって、最も推奨件数の多い0.20〜0.40m程度の高さを水深に応じて選択し、安全で合理的なスタート台の高さとして採用するのが妥当と判断される。
6.
以上より、「如何なる飛び込み状況の中でも安全を確保」という観点ではなく、水深1.00m〜1.35m未満のプールにおける一般的競泳スタートとして、安全に配慮された(必ず自分自身の身体で水深を確認させた上で)飛び込みスタートを行う場合のスタート台の高さのガイドラインを以下の通りとする。
7.
このガイドラインは、全国の既存の水泳プールの現状と、競技会・トレーニングの実施状況に照らし合わせ、頚椎・頚髄損傷、四肢麻痺等の重篤な飛び込み事故の防止を図るために検討・策定された。しかし、これは「絶対的な安全基準」という性格ではなく、現実的な妥協点とも言うべきものである。したがって、本ガイドライン通りの設定で実施した飛び込みのスタートであっても、陸上、水中での姿勢・動作等の要因が複合すれば、プール底に頭部を強打して、飛び込み事故が起こるのも事実である。
8.
本ガイドラインは、必ずしも十分な水深がないプール施設での事故発生の危険性を、適切・合理的な飛び込みスタート方法(到達水深が深くならないで速やかに泳ぎにつなげる飛び込みスタート)によって回避できることを前提としている。したがって、本ガイドラインに即さない施設の利用法や適切・合理的な飛び込みスタートができない泳者の利用により飛び込み事故が生じた場合には、施設の管理者や指導者の法律上の責任が問われる場合があることに留意が必要である。
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<安全面・記録面を考慮したスタート台の適正高さに関するアンケート回答結果グラフ>
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<プール水深に係わるアンケート回答集計結果一覧>
※1 スイミングクラブプールの70%は、1.10m以下の水深であり、90%超は1.20m以下であった。
※2 スイミングクラブプールのスタート台は、立上りの範囲(20cm)を超えるスタート台が85%設置されていた。
プール水深とスタート台の高さに関するガイドライン『記者発表資料』 |