北京オリンピック開幕まで、あと約2ヶ月。この時期に開催されるジャパンオープン 2008 (長水路)は、サブタイトルに記されているように、大きく分けて2つの意味を持つ、極めて重要なレースである。
1つは「第29回オリンピック競技大会壮行会」。壮行会と聞くと、華やかなお披露目の場をイメージしがちだが、北京オリンピックに出場する選手たちにとっては、紛れもない真剣勝負の場。それも「北京を占う」などという悠長なものではなく、すでに北京オリンピックの戦いは始まっているのである。
北京オリンピック日本代表選手は現在、8月にベストパフォーマンスを発揮することにすべてをかけてトレーニングに励んでいる。当然、今大会中に100%仕上がっている選手はいないが、このような万全のコンディションでないことを前提に、どれくらいのタイムが出るか。ここが今大会の最大の見所かつ、世界が注視しているポイントなのである。
インターネットなどが発達し、今や世界中のレースで誰がどれくらいのタイムを出したかは、すぐにライバル選手やコーチの耳に入ってくる。今大会で出たタイムも1日もたたずに海外の選手たちが知ることになる。
例えば、北島康介選手がこの時期に好タイムを出せば、ライバルたちは少なからず動揺し、オリンピック本番での想定タイムを大幅に修正する可能性がある。動揺が焦りを生んでトレーニングのペースを乱す選手もいるかもしれない。そもそもの戦略から変更しなければならない選手も出てくるかもしれない。すでにライバルに向けての情報戦は始まっているのだ。
また、世界に名の知れた北島選手や柴田選手、森田選手ばかりではない。世界でノーマークの選手が好タイムを出せば、「どんな泳ぎをする選手なのか?」という不安もかき立てる。世界に与える動揺がより大きくなるのは想像に難くない。特に海外勢にとって日本は、アテネの柴田亜衣選手など「ノーマークの選手が金メダルを獲得する国」という印象が少なからずともある。北京で再度波乱を起こす選手が出るかどうかの可能性も、今大会から探ることができるだろう。
もう1つのサブタイトルは「世界ジュニア選手権大会代表選手選考会(※1)」。世界ジュニア選手権大会(メキシコ・モンテリー、 7 月8〜13日)は、20歳以下の選手たちで争われる世界選手権で、今回で2回目を迎える。
この年代は北京の次、2012年のロンドンオリンピックで主力となる、日本の将来を担う選手たちだ。それゆえ今大会はジュニア世代の育成という目的も兼ね、参加標準記録を低めに設定。ジュニアの有望選手と、オリンピック代表選手を含む日本トップレベルの選手とを同じ土俵で競わせ、日本水泳界全体の底上げを目指している。
真剣勝負とはいえ、北京オリンピック代表選手たちにとっての今大会は「世界との情報戦」の意味合いが強い。しかし、世界大会の代表がかかっている若手にとっては「本番のレース」。かなりコンディションを整えて挑んでくることになる。オリンピック代表選手が苦戦するようなレースが展開されても不思議ではない。もし、オリンピック代表選手が後ろを泳ぐような場面があれば、それを演出した選手は一躍ロンドンの注目株に躍り出るはずだ。
北京へと羽ばたく日本代表選手たちと、ロンドンの主役を担う若手たちの競演、ジャパンオープン 2008 (長水路)は、日本の水泳界の現時点での最高レベルを確認し、なおかつ将来を占うという意味でも見逃せない大会である。
※ 1 ユース→ジュニアに変更となりました。 |