2025.02.24

【月刊水泳1月号】2024年世界選手権(25m)ブダペスト大会における日本代表チームの取り組みと課題

執筆・寄稿:ヘッドコーチ 佐々木祐一郎

 日本代表チームは男子11人、女子8人の選手を擁し大会に臨んだ。本大会の日本チームの目的は、国際競技力の向上とロサンゼルス五輪に向けた複数種目エントリーにおける課題抽出であった。
 入賞は11種目、深沢大和(東急/TSSあざみ野)が200m平泳ぎで銅メダルを獲得、村佐達也(中京大中京高/名鉄スイミングスクール刈谷)が100m自由形で高校記録を樹立、混合4×50mメドレーリレーではアジア記録を樹立するなど成果を挙げた。一方で、国別メダル獲得ランキングでは23カ国中最下位に終わる結果となった。
 大会前のミーティングでは「リレー全種目へのエントリー」を掲げた。この方針には選手の負担増加や不満も予想されたが、「2028年を見据えた準備期間として意義がある」と説明した。方針を明確に伝えることで、選手からは「迷わず行動できた」と直接私に伝えられた。選手の迷いを払拭するためにも決断力の重要性が改めて確認された。

 現地の大会運営は演出が充実しており、決勝入場時にLEDビジョンで選手のユニークな動画を流すなどの工夫が盛り上がりを演出した。日本チームは事前に苦境への対処法を共有した。「レースがうまくいかない場合でも声を掛け合い、励まし合おう」という意識づけが、チームの団結を助けた。
 実際、年長者が若手選手に積極的に声を掛けたことで、チーム全体の結束が強まり、社会人選手や大学生の支えに感謝している。
 応援やSNSの活用にも選手の自主性を重視した。選手の「こうしたい」という意見を尊重し、ルール内で実現することで、選手の積極性が発揮された。SNSでは「やってほしいこと」を先に伝え、注意点を補足するスタンスをとることで、前向きな発信を促した。1949年にラジオで古橋廣之進さんのレースが中継され、その活躍が多くの人々を歓喜させたように、水泳はその後もテレビを通じてファンを獲得してきた。これからの時代も、テレビと同様にSNSを正しく使い、ファンを獲得し支持を受けることが必要である。そのためには水泳の実力が基盤であることは言うまでもない。

 今大会、予選落ちをしたことで国際大会の成績が悪いと感じている選手やコーチも多かったが、実際は国際大会の予選タイムと国内の選考会の予選タイムはほぼ同じであるという事実を伝えたい。本当の課題は「国際大会の取り組み」だけではなく、「国内大会の予選レースで積極的に記録を出す」ことにある。ただし、この取り組みは容易ではない。「国内大会で予選から記録を出す」という理論を頭で理解しても、実際に指導者や選手が「予選から記録を狙う」ことができるかどうかが鍵となる。「決勝で記録を出したい」「決勝で勝てば代表になれる」という心理の中で、どれだけの選手とコーチが予選から全力で泳ぐことができるのだろうか。
 この予選タイムを引き上げる取り組みを、「チームニッポン(所属の垣根を払う)」として行えるかどうかが、2028年の活躍を左右する鍵となることを実感した。

 最後に、私自身、ヘッドコーチに選ばれた際、様々な意見が飛び交う中、「君がヘッドコーチだから君の思うチームを作れば良い」と電話で助言してくれたライバルコーチに感謝の意を表したい。この言葉のおかげで、後悔なく代表チームを率いることができた。この経験は今後の日本チーム作りや在り方にとって、大きなヒントになるだろう。

月刊水泳 vol.582 2025年1月号掲載