【月刊水泳1月号】競泳 ナショナル選手強化合宿報告
執筆・寄稿:ナショナル合宿ヘッドコーチ 楠田和史(藤村SS)
2024年12月14日〜 19日(5泊6日)、静岡県富士水泳場にてジュニアスイマーにとって最高峰の「ナショナル選手強化合宿」が開催された。2019年以降、コロナ禍となり、実施ができていない状況であったが、5年ぶりにナショナル対象選手全員が参加できる状況に復活した。今年の「ナショナル選手強化合宿」は、11月上旬までの日本水泳連盟が定める指定競技会を対象に種目ごとに高校2年生から中学1年生までのランキングを作成し、その上位2位(FR対象の100m・200mは4位)を除き、ナショナルタイムを突破した選手が対象となり、57人の選手が参加した(※種目ごとの上位2位または4位は「ジュニア国際代表候補合宿」として三重県鈴鹿で開催)。
合宿初日の開始式では、日本水泳連盟競泳副委員長の立川道宣氏より、来年度の日本水泳連盟強化指定タイム表が配布され、「今回の合宿を通し、次のステージを目指してほしい」、「そして、必ず4年後、8年後にはここから五輪選手が出ます。頑張ってください」と激励の言葉をもらい、選手たちは来年度の記録を確認し、自分の目指すタイムやレベルを明確にしてから合宿が始まった。
練習スケジュールは6日間を2クール制に分け、第1クール(前半3日間)を学種別グループ、第2クール(後半3日間)を種目別グループに分けて実施した。第1クールを学種別にした理由は、今回の参加メンバーのほとんどが中学生であったこと(40人/57人)から、中高生の体力差を考慮し、無理なくスタートをしたいという考えからだ。第2クールの種目別では、ライバル同士での競い合いを積極的にしてほしいという狙いからである。トップレベルになると所属クラブでは競い合うメンバーが少なくなるため、ナショナル合宿では、ライバル同士の競い合いが大きな魅力であり、選手にとっては大きな刺激となる。第2クールの「個人メドレー・自由形MD」を担当した大窪康治コーチ(セントラル清瀬)の練習は、まさにライバル同士の競い合いが多く見られた。
サポートするコーチも声を出し、選手を盛り上げ、非常にレベルの高い練習を展開していた。練習・トレーニング以外にも、多くの講習会が開催され「栄養講習会」、「ストレッチ講習会」、「アンチ・ドーピング講習会」・「オリンピアン講話(大橋悠依さん)」と盛りだくさんの内容であった。大橋悠依さんの講話は、「試合で勝つために必要な力」をテーマに話をしてくださった。練習も見学してもらい、選手が大橋さんのところに質問に行くと、丁寧に相談にも乗ってくれた。その時の選手の目はとてもキラキラしていた。
合宿最終日(12月19日)にはチーム対抗戦を実施。強化期間ではあるが、高い出力のレース強化も必要であり、またチーム力を高める目的で実施。チームはランダムに3チーム(各チーム19人)に分け、合宿初日に発表してからは、選手主体でミーティングを重ね、出場種目(1人200mと100mを泳ぐ)やリレーメンバー(フリーリレーと変則メドレーリレーをそれぞれ50m×10人で3回戦実施)を決めてもらった。
「チーム名」も「応援」も選手達が自由に決める。自分たちで作る楽しさを知り、どうやったらチームが優勝できるのかを必死に考えていく。ミーティングを重ねていくと、一人ひとりが「何秒で泳ぐ!」「◯点獲る!」と言って、自覚と責任のある発言をし始めた。素晴らしい光景であった。コーチ陣はあえてミーティングには参加せずに、アドバイスを求められたら、答える程度にした。いずれ日本代表となる選手たちには、今から「自分の考えや行動がチームのためになる」経験をしてほしいと思ったからである。対抗戦は非常に盛り上がり、短いレース間でも仲間同士でケアをしたり、応援をしたり、どのチームも素晴らしいチーム力を見せていた。疲労感がある中でも多くの選手が素晴らしい泳ぎを見せ、好記録も続々と出ていた。最終リレーまで優勝が分からない展開となり、全員が立ち上がり、声を出し、仲間を応援する。その光景は本当に素晴らしかった。
誰に指示されることもなく、「自分の考えや行動がチームのためになる」ことを皆が自然ととっている姿を見て、未来の水泳界は必ず明るくなると感じた。
4年後、8年後の五輪にこの合宿に参加したメンバーから、一人でも多くの選手が出場していることを期待したい。
月刊水泳 vol.582 2025年1月号掲載