2022.09.23 アスリート委員会

キャリアトランジション勉強会を開催

アスリート委員会主催の第2回勉強会。今回はキャリアトランジションのテーマで行い、多くの元選手たちや水泳関係者にお集まりいただきました。

 元アスリートの引退後のキャリアに関しては、実に多くの人たちが悩んでいます。最近は大学を卒業してからも競技を続ける選手が多いですが、スポーツ界のキャリアサポート体制は限定的であり、競技引退後のトランジションはその人個人で考え、対応しなければならないのが現実です。その悩みや困難を軽減・対処するために何ができるのかを考えるために、勉強会を実施しました。

 勉強会の冒頭では、国際大会に出場した経験のあるアスリートたちから、引退後のキャリア・トランジションの困難についてのコメントがありました。

田島寧子さん(シドニー五輪競泳日本代表)

「引退するまでは将来についてぼんやりとしか考えていなかった。急に引退を迎え、どうしようかと悩んだ。オリンピックで金メダルを獲るという大きな夢を持って競技に打ち込んできたが、人生の中でそのくらい大きな目標などなかなか作れず、何を糧に生きていったらいいんだろうと悩んだ。自分一人で悶々と抱え込んで、どんどん悪い方向に考えてしまうこともあった。今思えば、現役時代から準備できることがもっと他にあったんじゃないか」

志水祐介さん(リオデジャネイロ・東京五輪水球日本代表)

「水球はマイナー競技なので、学生を終えてからの競技続行が難しい。私は教員をやりながらロンドン五輪を目指しましたが叶わず、それでもオリンピック出場の夢を諦められなかったので教員をやめて、アルバイトをしながらリオ五輪を目指しました。オリンピックに出場するかしないかで何らかの大きな変化は起きるとは思うんですが、その後の人生の方が長い。競技を一生懸命がんばっている中で、空きの時間に、先のこと、セカンドキャリアについてもしっかり考えないといけないなと思って競技をしてきました」

源純夏さん(シドニー五輪競泳日本代表)

「発言力がある、存在感がある現役時代や現役引退直後の時に、もっと現役時代に先のことを考えて、努力をしておけばよかったなと、自分から社会に対してコミュニケーションをとるということをしておけばよかったなと、現役引退して20年経ってつくづく思っています」

 今回の勉強会の講師には、第1回の「メンタルヘルス」の回と同様、アーティスティック・スイミングのオリンピアンで、引退後スポーツ心理学を学び、メンタルトレーニング指導士、IOCマーケティング委員、慶大特任准教授など多方面で活躍されている、スポーツ心理学者(博士・システムデザインマネジメント学)田中ウルヴェ京さんにお引き受けいただきました。

 前半の講義部分で、ウルヴェさんから、アスリートのキャリアに関する歴史的背景、キャリア・トランジションの定義をはじめ、アスリートがキャリア支援に行きにくい7つの理由などをご説明いただきました。その中でまず、海外と日本の「アスリートのキャリア支援」の違いについて示されました。海外での支援は、アスリート特有の心理課題に特化した心理面、社会面を含んだ包括的な支援アプローチでなされていることに対し、日本ではそれが、就職に特化した支援であることが現状の課題として指摘されました。その結果、日本のアスリートにとって「キャリア支援ってセカンドキャリアを見つける支援でしょ」という狭い理解が広まっており、「そもそもキャリア支援って何をしてもらえるところかわからない」「知名度のある選手は一般の人と同じ場所に相談に行けない」「指導者や競技団体が現役時代にセカンドキャリアを考えることに否定的」「心理的な悩みがあっても相談できない」などの課題が研究で明らかになっているとウルヴェさんは指摘します。

 ではどんなサポートが考えられるのか。後半部分の参加者との質疑応答・ディスカッションでは、なぜ日本水泳連盟がサポートしなくてはならないのか、今後どのような支援ができるかなどの議論がなされました。

 参加者からの事後アンケートでは、お答えいただいた方の95%が「とても良かった」「良かった」という感想をいただきましたが、今後のアクションについての議論はまだ始まったばかりです。

 ウルヴェさんの言葉の中に非常に印象的な言葉がありました。

「人生においてスムーズなキャリア・トランジションなどありません。

一方で、健康的なキャリアトランジションができなければ、

引退後に心の病気、体の病気を抱える場合もあります。

引退後の10年、20年を、自分らしく、ゴツゴツ生きていくために、必要なサポートを考えられれば良いと思います。」  難しい問題ですが、アスリート委員会として、今後も多くの元アスリートのご意見を伺いながら、現役選手や引退後の選手のために必要なサポートを考えていけたらと思います。