2025.02.24

【月刊水泳1月号】男子水球World Cup Division2 審判報告

執筆・寄稿:水球World Aquatics国際審判員 宇田川佑里子

 今大会は、World Aquatics(AQUA)の水球競技規則が大きく変更された後、初めて行われた大会である。大会開催前には、テストルールの適用や変更点に関する情報が錯綜したが、AQUA水球副委員長の黒田氏からの情報をもとに、事前準備をしっかりと行うことができた。また、近年はSNSの発達により、情報量が多くなったが、情報の選定には改めて気をつける必要があると認識する大会となった。新しい規則の主な変更点として、男子の競技コートが30mから25mに縮小され、ショットクロック(ボールを保有できる最大時間)が30秒から25秒に短縮された。今大会は、女子のトーナメントだったため、コート、保有時間に変わりはないが、シュートリバウンド、コーナースロー、退水といった再保有のショットクロックは15秒にリセットされ、セットにおいての試合展開が速くなり、選手にとって、より攻撃的なプレイスタイルと戦術が求められるようになったと感じた。

 大きく変わった点としては、6m線内でのファウルであっても、フリースロー解除(インプレイ)の後に6m線外に移動してのシュートが認められることである。これは、6m線外でボールを保持している場合のセンターポジションでの退水であっても、審判のインプレイ合図がなされた後、6m線外で解除をした後にシュートを打つことが可能となるものである。この様に、スピーディーに攻撃ができるようになる上で、審判員が忘れてはならないのは、小さいながらも、これまでと変わりのないフリースロー妨害や、タクティカルファウル、ファウル時の頭位置の2m線、6m線といった点に焦点を当てなが判断していかなければならないと感じた。

 次に、試合中に監督が判定に対してReviewcheck requestを行える『コーチチャレンジ』が新ルールに導入され、監督は、ボールの保有権がある状況時に緑色のフラッグをプールに投げ入れ、タイムボタンを押すことで、特定の判定に対する再確認を求めることが可能となり、試合の透明性と公平性が向上した。しかし、まだまだVARレビューには時間がかかりすぎる場面も多く選手にとっても、観客にとっても冷めてしまう空気感ではあった。さまざまな変更の中、審判にとって重要な基準は変わらず、水球委員長であるMr.Tamas Molnarが言っておられた3Cs(※Control : 試合の早い段階に選手、ベンチをコントロールする。※Consistency : 判定は一貫性を保つ ※Collaboration : 2人の審判員とVAR審判員とデレゲートで協力する)に重点をおき、判定することを心掛けた。

Technical MeetingとReferee Workshop
 今大会前の11月19日に、コーチや関係者を対象としたテクニカルミーティングがオンラインで行われ、新しい競技規則や大会運営に関する詳細な説明があった。選手やスタッフは新ルールを理解し準備をするには時間が短すぎたと感じた。12月9日には、オンラインでレフェリーワークショップが実施され、新ルールに基づく審判の実践的な対応方法や判定基準の確認があり、ルールの適用方法についても確認し、試合中に迅速かつ適切に対応できるよう準備するように話があった。大会3日目の朝には、今大会での事象ビデオを使用した追加ワークショップが行われ、試合中に発生した重要な場面を振り返り、新ルールが正しく適用されているかを確認した。参加審判は実際の試合映像を通じて新ルールの運用を再確認し、必要な調整を行った。また、新ルール以外にも、Ms.Voula Kozonpoliが言っておられたのは、女子の試合特有の水着を掴む行為についても、反則をして優位になることのないようにと強く話されていた。

大会結果
 日本女子代表は、決勝で再対戦でもある中国を下し、見事に優勝を果たした。この優勝は、日本女子チームにとって非常に意義深い成果であり、今後の大会に向けた自信を深めることができた。特に、ロサンゼルス五輪出場にはアジア王者となることが求められており、今回の優勝はそのための幸先の良いスタートとなったに違いない。日本女子代表は、この成功を基に、さらに高い目標に向かって成長していくことが期待されるだろう。

 今大会は、新ルールのもとで行われ、関係各所が連携し、日本代表選手団として、チームとして準備を進めた。選手たちは新ルールを試合毎に理解し、情報提供やルール説明を受けながら試合に臨んでいた。こうした準備と協力体制が、日本女子代表の優勝という結果に繋がったと身近で見て感じた。今後も水球競技の発展と選手たちのさらなる活躍を支援し、次回の大会でも日本の水球がさらなる成長を遂げることを期待する。

 最後に、本大会に帯同審判員として参加させていただき、日本水泳連盟をはじめとする関係者の皆様に心より感謝申し上げます。今後も水球競技の発展と選手たちのさらなる飛躍を応援し続け、私自身も今大会の経験から、選手たちの素晴らしいパフォーマンスを支えるために尽力していきたいと考える所存である。

月刊水泳 vol.582 2025年1月号掲載