2025.03.17

【月刊水泳1月号】連載:クリーンアスリートになるために 『2025年 禁止表国際基準の要点』

執筆・寄稿:アンチ・ドーピング委員会 篠木真帆

 新年、明けましておめでとうございます。

 昨年は多くの方にアンチ・ドーピング活動にご協力いただきありがとうございました。スポーツにおける公正な競技を守るために、選手が使用してはいけない物質や方法をリスト化した禁止表国際基準は、毎年1月1日に改定されます。2025年1月1日に改定された禁止表の要点を説明します。

  1. アンチ・ドーピングの目的  アンチ・ドーピングの主な目的は、スポーツの公正性を保ち、選手の健康を守ることです。ドーピングは、選手が不正にパフォーマンスを向上させるために禁止された物質や方法を使用することを指します。これにより、競技の公平性が損なわれ、真剣に努力している選手に対して不公平な状況が生じてしまいます。
  2. 禁止物質と方法  2025年の禁止表は2024年と目立った変更点はありませんが、以前から聞かれることの多い点をまとめてみました。以下の物質や方法は禁止されていますので、よく読んで確認してみて下さい。
  • 蛋白同化薬:一般的に知られているのは男性ホルモンで、筋肉を増強する作用があります。これにより筋肥大が生じますが、健康に深刻な影響を及ぼすこともあり、クリーンスポーツでは禁止されています。サプリメントや、中国・メキシコの食肉(動物の肉付きを良くする)に含まれている蛋白同化薬によって違反が起きています。
  • 興奮薬:集中力や持久力を高める作用があります。これにより、集中力が高まったり、疲れにくくなったりしますが、心臓に過剰な負担をかけることもあり、クリーンスポーツでは禁止されています。また、市販の風邪薬に含まれていることがあり、うっかりドーピングが起きています。特に冬のこの時期は、風邪をひいてしまうこともあると思います。アンチ・ドーピング規則違反にならないように、薬の服用前に医師・薬剤師に必ず確認しましょう。また、低血圧の時に使われる薬であるメトリジン(成分名:ミトドリン)や、ADHDの治療薬であるコンサータ(成分名:メチルフェニデート)も禁止物質に該当するので、治療中の方、治療予定の方は注意が必要です。
  • β2作用薬:β2作用薬は気管支を拡張する効果がある薬のため、呼吸が楽になります。この薬は気管支喘息の治療に使われる薬ですが、一部の薬はクリーンスポーツでは禁止されています。病院で処方されることの多いメプチン(成分名:プロカテロール)やホクナリン(成分名:ツロブテロール)は禁止されています。麻黄という漢方薬にもこの成分が含まれているため、漢方を使った市販の風邪薬にも注意が必要です。アンチ・ドーピング規則違反にならずに使用できる治療薬もありますので、医師・薬剤師に必ず確認しましょう。
  • 糖質コルチコイド:病院などではステロイドと呼ばれることも多い物質です。痛みや炎症も軽減することができます。しかし、適正使用以外の使い方は、健康に深刻な影響を及ぼす可能性があり、クリーンスポーツでは禁止されています。口内炎の治療薬や痔の治療薬に含まれていることがあるため、使用には注意が必要です。市販薬でも含まれているものがあるので、使用する前に確認をしましょう。
  • 静脈内注入:静脈に入れる注射や点滴で、12時間あたり計100mLを超える場合は、禁止物質を含まなくても、その方法そのものが禁止されています。入院設備を有する医療機関での検査や治療、手術などで適正に受ける場合は除きますが、無床診療所(一般的なクリニックや医院など)での静脈内注入は禁止です。過去に、ビタミン剤を含む点滴を疲労回復のために使用した選手が違反となりました。治療以外の目的での点滴や注射は避けましょう。ただし、熱中症や急病で救急搬送され、点滴が必要な場合は治療が優先されます。競技レベルにより事後の対処が異なりますが、該当する選手は遡及的TUEを申請しましょう。  不明な点は日本水泳連盟アンチ・ドーピング委員会までお問い合わせください。

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月刊水泳 vol.582 2025年1月号掲載